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夜尿症について |
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夜尿症とは、5歳を過ぎて睡眠中に無意識に排尿してしまう状態が、1か月に1回以上あり、これが3か月以上続くものをいいます。1週間に4日以上あれば頻回の夜尿、3日以下では頻回ではない夜尿とされています。
小児の夜尿症は、就学直前の5〜6歳で約20%、小学校低学年では約10%台で、10歳を超えても5%前後にみられます。中学校時代には1〜3%まで減少しますが、稀ながら成人になっても継続することがあります。
このように夜尿症は決して稀な疾患ではありませんが、受診に至らず自然軽快するものや、受診が遅れる場合もあるため、頻度はさらに高い可能性もあります。
夜尿症の年ごとの自然消失率は15〜17%/年とされていますが、治療を行うことで治癒率を2〜3倍高めることができ、治癒までの期間も短縮することができます。
分類:
夜尿のみの単一症候性と、夜尿だけでなく昼間尿失禁などを伴う非単一症候性があります。非単一症候性夜尿には昼間に頻尿や切迫感のある尿意を感じたり、尿をちびったりなどの症状(下部尿路症状)があり、これらの治療をまず行う必要があります。
また、ずっと夜尿が続いている一次性夜尿と、夜尿が6か月以上消失していた時期があるのに再度夜尿になった二次性夜尿があります。二次性夜尿には脊髄や尿道、内分泌などの他の疾患、あるいは生活上のストレスや精神的疾患などが併存している確率が高くなりますので、これらの基礎疾患を治療する必要があります。
以下は、一次性の単一症候性夜尿について述べます。
原因:
原因としては、@夜間多尿、A排尿筋過活動、B覚醒閾値の上昇、が三大要因とされています。
@ |
夜間多尿;夜尿患者では、夜間の尿量が多い事が重要な病因となっています。これは主に就眠中の抗利尿ホルモンの分泌が低下していることによるとされています。 |
A |
排尿筋過活動;睡眠中に膀胱の筋肉が過度に収縮する一方で、骨盤の排尿を止める筋肉が不活発であると夜尿をしてしまいます。 |
B |
覚醒閾値の上昇;異常に睡眠深度が深いことが夜尿に関与しているかどうかはまだわかっていませんが、夜尿患者は起こしても覚醒しにくいといわれています。 |
その他、C発達の遅れやD遺伝的要因も関与することがあります。 |
<附>
多尿型、膀胱型、混合型と病型を分類して治療方針が決められることがありますが、上記のうち最も重要な@Aを中心として病型分類されたものです。。
初めに行う診療:
夜尿症の診察では@病歴などを詳細に聴取し、A身体の診察を行い、そしてB尿検査の3点は必ず行います。
これらにより、分類の項で述べた単一性か非単一性、一次性か二次性の区別、特に便秘や遺糞症などの消化管の障害や膀胱機能障害がないかどうか、夜尿を来す器質的疾患の有無を評価し、必要に応じて検査を行います。
治療:
夜尿症の治療は以下の@〜Dの5つに分類されます。
まず、@生活指導、A行動療法を行ってその効果を確認した後に必要であれば次に積極的な治療であるBアラーム療法、C薬物療法、Dその他、へ進むことになります。
@生活指導
1) |
日中に十分に水分をとるようにします |
2) |
朝食・昼食を十分にとり、夕食を就寝の2時間前に済ませるようにします
特に、夕食の塩分は制限します |
3) |
夕食後は水分を制限します(コップ1杯程度まで) |
4) |
就寝2時間前から水分摂取は控えめにします |
5) |
寝る前に完全に排尿します |
6) |
良い睡眠をとるために遅寝はしません |
7) |
夜間睡眠中に強制的に起こしません
ただし、お泊まり行事などの期間中に限定的に起こすことは構いません |
8) |
睡眠中の寒さや冷えから体を守ります |
A行動療法
1) |
夜尿のなかった日にご褒美を上げます
夜尿のあった日にペナルティーを与えるのは逆効果です |
2) |
水分摂取を制限します
1日の水分摂取の80%を午前と午後でとり、夜間は20%にとどめる。 |
3) |
便秘がある場合はその治療を行います |
4) |
排尿訓練・膀胱訓練を行います
膀胱訓練;できるだけ排尿を我慢し、徐々に排尿までの間隔を延長します
定時排尿:決まった時間に排尿させます |
* |
夜間に起こすこと |
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@-7)と相反するかもしれません。事実、夜間睡眠中の尿意の有無や膀胱充満と無関係に起こすことには問題があります。睡眠中の中途覚醒は、抗利尿ホルモンの分泌低下を来たし、かえって夜間多尿をおこしたり、有効な膀胱容量を小さくするという悪影響があります。一方、行動療法として夜間に起こす場合には、就寝1時間後に起こしてトイレに行かせ、夜尿がなければ徐々に時間をずらしていく方法や、約束した時間に起こして約束した文言(パスワード)を唱えさせて排尿させるなど、一定の条件下で行われることには効果があるとの報告もあります。 |
生活指導と行動療法で夜尿の改善がみられない場合は積極的治療の併用を行います。積極治療の第一選択は、次のアラーム療法か薬物療法の中のデスモプレシン療法とされています。
Bアラーム療法
就眠中の排尿を気づかせ、覚醒してトイレに行くか、我慢できるようにすることで夜尿をしないようにする治療です。約2/3の患者で有用とされています。
本人も家族も治療へのモチベーションが高い場合に効果が良く、アラームの音か振動で本人自身が起きる、または家族の介助で起きなくてはなりません。
ただし、残念ながら保険適応外です。
C薬物療法
<1> |
デスモプレシン |
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尿を濃縮して尿量を減らす効果があります。抗利尿ホルモンといいます。従って、夜間多尿であるが機能的膀胱容量は正常の患児で最も効果的です。6歳以上の単一症候性夜尿患児の第一選択薬として使用します。
以前は点鼻薬として使用していましたが、2012年以降、経口薬が発売され、現在は口腔内崩壊錠として処方されます。
水中毒という副作用の可能性があるため、夜間に多量の水分をとった場合には本剤を服用しないようにします。 |
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<2> |
抗コリン薬 |
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第一選択薬ではありません。昼間の尿失禁などを伴う夜尿または単一症候性夜尿でも排尿筋過活動を原因とするタイプには有用である可能性があります。デスモプレシンとの併用も考慮しますが、その場合の有効率は約40%です。 |
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<3> |
三環系抗うつ薬 |
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第3選択薬です。アラーム療法やデスモプレシン療法で治療効果が得られなかった場合に対象となります。 |
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<4> |
漢方薬 |
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作用が温和であることから、軽症症例か他の薬物療法である程度改善した症例での併用療法が良いようです。 |
夜尿は成長とともに自然に治癒する傾向がありますが、全例で治癒するわけではなく、本人や保護者の方が夜尿に悩んでおられる場合には、積極的に治療を行うことが勧められます。 |
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2024年9月更新 |
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