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膀胱尿管逆流(VUR) ぼうこうにょうかんぎゃくりゅう(ブイユーアール)
◆どのような病気でしょうか?

膀胱尿管逆流(VUR)は、膀胱内の尿が膀胱充満時や排尿時に、尿管および腎盂(じんう)内に逆流する現象です。
 腎臓で作られた尿は腎盂、尿管を通り一旦膀胱にたまった後、排尿時に尿道を通って排泄されます。正常ではこの通り道は一方通行で、膀胱にたまった尿が尿管や腎盂に逆流することはありません。ヒトでは膀胱尿管逆流は異常な状態といえます。

◆原因は何でしょうか?

膀胱尿管接合部の解剖学的異常に原因があります。通常では、膀胱内に圧をかけても尿管へは逆流しませんが、膀胱三角部の形態や膀胱壁内尿管と膀胱壁との進入角度、壁内尿管の長さが短くなるなど、尿管と膀胱の接合部(尿管口)が弱い場合には、逆流を止める力が弱くなり、膀胱尿管逆流を発生します。また、尿道に狭い部分があるような場合にも、排尿時に負担がかかり膀胱尿管逆流を生じることがあります。
 頻度は、乳児までは男児に多くみられますが、その後の性差はないといわれています。また、家族内発生や多因子による遺伝もあるといわれています。
◆この病気の何が問題なのでしょうか?

 膀胱尿管逆流があると、膀胱内に入り込んだ細菌が逆流した尿に乗って腎盂まで上がることにより腎盂腎炎となり、高熱が出たり、時には敗血症になることもあります。また、腎盂腎炎を繰り返すことにより、腎臓にキズ(腎瘢痕といいます)ができることがあります。腎瘢痕が増えてくると腎機能低下の原因にもなります。膀胱尿管逆流の治療の目的はこの腎盂腎炎を起こさなくすることにあります。
 膀胱尿管逆流により腎に何らかの障害を持つものを逆流性腎症といいますが、このような状態を起こしてくることが膀胱尿管逆流の最大の問題といえます。
◆どのように検査や診断をしますか?

膀胱尿管逆流はおしっこがたまっている時やおしっこをする時に起こるものですから、これを検出するためのレントゲン検査が診断には必要です。具体的には膀胱造影と排尿時膀胱尿道造影(図1)を行います。実際には、おしっこの出口から細く軟らかいチューブを膀胱までいれ、このチューブからレントゲンに写る造影剤と呼ばれる薬の入った液体を膀胱に注入していきます(膀胱造影)。膀胱がいっぱいになっておしっこを出した瞬間をレントゲンに撮ると逆流のあるなしやその程度、さらには尿道に狭いところがないかなどもわかります。
 膀胱尿管逆流が見つかった場合、今度は腎臓がどの程度障害を受けているのか、腎瘢痕の有無やその量、腎臓の萎縮などを知ることが大切です。また逆流の程度が強いお子さんでは、生まれた時から逆流する側の腎臓が小さい(低形成腎)こともあります。このような腎臓の詳細を把握するためには腎シンチグラムという検査を行います。これは少量のアイソトープ(放射性同位元素)を注射して行う検査ですが、普通のレントゲン写真より放射線による影響ははるかに少なく、小さなお子さまでも安全に行える検査です。(ただし撮影時にはじっとしていることが必要ですので眠らせて行うことが多いです。)

◆治療法

 膀胱尿管逆流の自然経過を調べると、自然消失する可能性もあることがわかっています。この自然消失率は逆流の程度、年齢、性別などによって変わります。消失の可能性が高い場合にはすぐには手術を行わず、経過観察します。この間、腎盂腎炎を予防するために少量の抗生物質を飲み続けてもらうこともあります。しかし、自然消失の見込みが少ない場合や、抗生物質では腎盂腎炎をおさえられない場合などには手術を行います。
 手術法は、逆流防止術が標準的です。この手術は小児の場合は全身麻酔下で行います。下腹部を横に切開して膀胱を開いた上で、膀胱の内側から尿管をくり抜き、膀胱の内側の「粘膜」という薄い膜の下に「トンネル」を作り、尿管を通します。膀胱尿管逆流の原因のところで説明したように膀胱粘膜の下を尿管が斜走する距離が短いことが問題ですから、これを手術的に作成するわけです。この方法の成功率は高く、この手術に慣れている施設では97〜99%以上です。
 その他の手術法として、内視鏡を使って尿管口周辺にペースト剤(デフラックス)を注入する方法があります。開腹の必要がない事や手術侵襲が少ないので入院期間がごく短期間ですむ一方で、成功率は開腹手術と比べてやや低いのが難点で、高度逆流には施行できないことがあります。
 腹腔鏡を用いた手術も2012年から保険治療が可能になっています。標準の逆流防止術と同じ原理で、おなかを大きく切開せずに腹腔鏡を用いて手術を行います。体表の切開創は約5mmが3か所程度で済みますが、体格とくに膀胱が小さい乳幼児には技術的に困難です。

◆合併症

 まれに尿管と膀胱をつなぎ合わせたところが狭くなることがあります。多くの場合は一過性のむくみによるもので特に治療の必要はありませんが、尿の流れが改善しない場合には、腎臓にカテーテルを入れたり、再手術を行うことがあります。また、逆流の再発や、片側だけの手術の場合反対側に逆流が出現することもあります。軽度の逆流であれば多くの場合治療は不要ですが、腎盂腎炎をおこすような場合は抗生剤内服や再手術が必要になることもあります。その他、出血、創部感染などの一般的な危険性もありますが、重篤なものは極めてまれです。

◆術後経過観察について

 われわれの施設(福大病院)では手術後3ヵ月目にレントゲン検査(排尿時膀胱尿道造影)を行い、逆流が消失したかどうかを確認しています。この段階で膀胱尿管逆流が消えていれば、術後半年目に尿検査を行い、その後は原則的には1年に1回だけ検査を行います。手術成功率が極めて高いので排尿時膀胱尿道造影を繰り返し行うことはありません。経過観察時の検査項目は腎臓の形態(腎瘢痕など)と機能をみていくことになります。成長期の間は経過観察が必要と考えていますが、まったく腎瘢痕のないお子さんの場合、長期間にわたって受診する必要はありません。女児の場合は将来妊娠、出産をむかえる時に泌尿器科を受診していいただくよう説明しています。
 一方、腎に瘢痕や低形成などの形態異常が強い・腎機能が低下している・蛋白尿が出現している・高血圧があるなどの進行性の逆流性腎症が疑われる場合、または経過中にこのような状態が出現してきた場合には腎保護治療を開始することになります。特に腎臓の病理組織検査を追加して腎に負担がかかっている事が証明された場合には速やかに腎保護治療を開始する必要があると考えています。

参考:小児膀胱尿管逆流診療指針2016
 
2024年9月更新
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